- サステナビリティ
こんにちは!
モリエコ事務スタッフ、ことりです。
みなさん火星に引っ越すとしたら何を持って行きますか?
ことりは、まず食料とお布団です、衣食住は大切です。
しかし問題は衣食住の「住」建物です。
火星に建物を建てられるのか?と疑問ですが、実は3/23におもしろい研究が発表されました。
今回は火星への移住を考えられている方にオススメのお話です。
将来的に計画されている有人火星探査や月面基地には、分厚い壁や天井を持つ建物の建設が必要と言われています。
理由は、地球と違って大気がない、もしくは大気が薄いため、宇宙から降ってくる放射線や隕石から守る必要があるからです。
地球外で人が長期間住める建物を作るには大量の材料が必要になります。
頑丈なコンクリート造を火星や月に作ろうと思っても、コンクリート造を作る材料をロケットに積んで地球から大量に持って行くのは費用面でも無理があります。
そうなると火星で大量の材料を作る必要性が出てきます。
火星や月の地面には「レゴリス」と呼ばれる細かい砂で覆われています。
しかし乾いた砂や土で泥団子を作るのが難しいように、サラサラで細かい砂の「レゴリス」をそのまま固めても、建物の材料にはできません。
材料として強度を高めるには、レゴリスの粒子同士をくっつけるための結合剤を混ぜる必要があります。
例えば、地球ではコンクリートは一般的に使用されています。
コンクリートを固めるための結合剤のセメントは原料が炭酸カルシウムです。
しかし炭酸カルシウムは火星や月にほとんど存在しません。
そのうえ、加工には大量の熱とその熱を生み出すためのエネルギー源が必要になります。
また、焼きレンガで建てることもできますが、やはり高い熱が必要で、専用の炉やエネルギー源も準備しなければならない多大な費用がかかってしまいます。
そのため、コンクリートや焼きレンガのような材料で、火星や月でも入手しやすいものをどう作るのかが研究ポイントになっています。
この研究におもしろいアイデアを出したのがイギリスのマンチェスター大学のA.D.Robertsさんの研究チームです。
2021年の論文でレゴリスとの結合剤として材料が発表されました。
それは人の血液に含まれる「アルブミン」というタンパク質と、汗や涙に含まれる「尿素」を結合剤として「レゴリス」と混ぜ合わせることで作れます。
文字通りの「血と汗と涙の結晶」の材料ができました。
この材料は「アストロクリート(AstroCrete)」と名付けられました。
この物質は水と混ぜた後に家庭用オーブンと同じくらいの熱で固められる簡単さがあり、通常のコンクリートより少し硬い強度を持っています。
「アルブミン」の調達に少し難点があります。
人の血液に含まれる「アルブミン」というタンパク質を抽出するために直接血を抜き取ることはできません。
そのため人体由来の廃棄物、使用期限の過ぎた輸血用血液などから「アルブミン」を抽出することになると思われます。
または、蜘蛛の糸は「アルブミン」の原料になるかもしれないという研究もされています。
蜘蛛は輸送も飼育も簡単なため、クモの糸からアルブミンを大量生産できるようになるかもしれません。
しかし抽出に段階が必要なのは難点で、生体由来物質がそのまま材料に含まれているのは、長期的に宇宙飛行士の健康を損なう可能性もあるのは懸念点です。
アストロクリートに代わる物質として植物由来の物質が検討されました。
それはすでに地球でもコンクリートの代わりの材料として検討されています。
例えばコーンスターチを使用した「コーンクリート(CornCrete)」です。
普通のコンクリートとほとんど同じ強度を持っています。
これはスターチ(でんぷん)の分子が水と混ぜられることで、砂同士をつなぎ、強度の高いコンクリートのような塊になります。
しかし、コーンクリートのような植物由来物質の場合、湿気に弱いでんぷんを主原料としているため、空気中に湿気が存在する地球では用途が限られてしまいます。
そうなんです!地球なら!
湿気の存在しない火星や月なら、湿気の問題はありません。
また、でんぷんの原料となる植物は同じく長期滞在で問題となる食料減として、現地でも栽培されると仮定すると調達の問題も少ないです。
研究チームは、①食糧事情を圧迫しない、②余剰生産分を建築材料に回せる、少ない量でコンクリートのような建築材料を作れないか複数の植物で研究しました。
その結果、トウモロコシやお米、タピオカや小麦などの候補の中で、ジャガイモのでんぷんが1番良い結果になりました。
この物質を「スタークリート(StarCrete)」と名付けました。
スタークリートは、そのままではあまり硬くないため、さらに添加剤を追加して強化する研究が行われました。
現地で調達しやすい、いくつかの候補が検討された結果、尿素、酢酸、塩化マグネシウムが候補の中、いくつものテストの結果、塩化マグネシウムが最も良い材料であることがわかりました。
塩化マグネシウムは身近なところでは、お豆腐を固める「にがり」の主成分で、家で使う食塩にも不純物として含まれています。
たくさんの研究の結果、レゴリスに対して約4.5%のでんぷんを混ぜ、塩化マグネシウムを溶かした水で固め、100度以上の加熱脱水によって作られる「スタークリート」が低コストで強度の高い材料になることがわかりました。
問題の強度に対する研究も進められました。
人工的に再現された火星のレゴリスと月のレゴリスを材料に作られたスタークリートはそれぞれ、71.95MPa(火星)と91.68MPa(月)という圧縮強度を示しました。
これは普通のコンクリート(32MPa)どころか、高強度コンクリート(42MPa)をはるかに上回る数値です。
また今回の割合で作ると、25㎏の脱水でんぷんから500㎏のスタークリートを生産することができます。(レンガにして213個分)
参考画像:論文より引用
現地で生産されるであろう植物を原料に、その土地にたくさんあるレゴリスを使ってコンクリートと同程度の強度、またはそれ以上の強度を持つ建築材料を作れるのは非常に利点です。
ジャガイモでんぷんを使用すれば、同じ生体由来物質とはいえ、植物由来のため、長期的な健康問題に関する懸念点も抑えられます。
将来的に火星でジャガイモ栽培を行う理由は、基盤となる食料だけではなく、建築材料として必要物資を確保するための役割も担うかもしれません。
原著論文:論文
参考文献:マンチェスター大学 ニュースページ